無言館の沈黙に宿る祈り 戦没画学生慰霊美術館にて(2)【ひとり旅】
展示される人物画は女性(家族、妻、恋人)や自画像を描いた作品が多い
作品を受け継ぎ守り続けてきた家族の思い
無言館の沈黙に宿る祈り 戦没画学生慰霊美術館にて(1)【ひとり旅】から続く
無言館に寄託する90年代まで、作品を受け継ぎ守り続けてきた家族の思いを想像すると胸が詰まる。亡くなった兄弟、最愛の夫、顔を覚えていない若い父親の作品を戦後数十年にわたり守り続けてきた、遺(のこ)された人の思いはどのようなものだったか。絵画は何も語らないが、その沈黙の中に、積み重なる祈りを感じる。
「彼らは戦争画家ではなく、自分の好きなものを描いた学生でした。その作品には、国策で無残に生を閉ざされた悲しさだけではなく、大好きな絵に愛する人たちや故郷を描くことができる喜びと、若いエネルギーが満ちています」と館主代理の三島さやかさんは言う。
無言館の名前の由来は「作品は無言のまま、多くを語りかけてくる」と「作品の前に立つ者は無言になる」の二つの意味があるという。静謐(せいひつ)な空間の中、ひとり画家たちと向き合っていると、いつしか自分自身と向き合っていることに気付く。彼らはそうだったが、君はどうなのかと。
春の「信州の鎌倉」を歩く
薄暗い無言館を出ると、陽光がまぶしい。近くの前山寺(ぜんさんじ) 、残照館まで歩きたい。前山寺は「花の寺」と呼ばれ、春は桜や藤の花に彩られる。寺の前にある残照館は、眺めの良い館内カフェが休憩におすすめだ。
そのままのどかな塩田平の風景を見ながら、山際に点在する龍光院、塩野神社、中禅寺を歩いた。鎌倉時代などの古刹(こさつ)が点在するこの地は「信州の鎌倉」と呼ばれる。
夜は別所温泉に泊まり、翌日は上田の城跡や店を巡った。無言館で絵画を見た後では、目の前の自然や町並みの美しさがひと際身にしみて感じられる。
文/福﨑圭介 写真/青谷 慶ほか
🔳モデルコース
上田駅
↓(上田電鉄16分)
下之郷駅
↓(シャトルバス11分)
無言館
↓(徒歩10分)
前山寺+残照館
↓(徒歩20分)
中禅寺
↓(シャトルバス10分)
別所温泉
↓(徒歩4分)
別所温泉駅
↓(上田電鉄30分)
上田駅
ひとり泊歓迎の宿
旅宿 上松や<別所温泉>
外湯「大師湯」「石湯」のそばにある明治創業の宿。「ひとり旅歓迎の宿」をうたい、ひとり旅プランも。風呂は露天風呂付きの大浴場と貸切風呂(35分2500円)に、単純硫黄泉をかけ流し。
【ひとり泊データ】
通年可/1泊朝食1万5400円~、1泊2食1万9800円~/トイレ付き8~10畳和室など/上田駅から上田電鉄30分、別所温泉駅下車徒歩10分(上田市別所温泉1628)/TEL:0268-38-2300
富士屋<田沢温泉>
田園風景が広がる山麓に宿3軒がある田沢温泉の宿。露天風呂付きの大浴場には単純硫黄泉の湯をかけ流し。貸切家族風呂もある。料理は里山の会席料理。春には庭のレンゲツツジが咲く。
【ひとり泊データ】
繁忙期、休前日を除く/1泊朝食1万4000円~、1泊2食1万8000円~/トイレ付き8畳和室/上田駅からバス30分、青木バスターミナル下車送迎5分(青木村田沢2689)/TEL:0268-49-3111
訪ねたい古刹やカフェ
独鈷山(とっこさん)麓にある真言宗の古刹。1331年に塩田城の鬼門に当たる現在地に移り、塩田北条氏の祈祷(きとう)所になった。茅葺(かやぶ)きの本堂や国の重要文化財の三重塔「未完成の完成の塔」と、春は桜や藤の花の組み合わせが美しい。境内でとれるオニグルミのたれを使う、くるみおはぎ900円が名物(4月~11月・要予約)。
■参拝9時~16時/無休/200円/上田電鉄下之郷駅からシャトルバス12分(塩田町駅からタクシー5分)/TEL0268-38-2855
テラス席からの塩田平の眺めが素晴らしい残照館のカフェ。各種ドリンクや、季節の食材を使った前菜とリゾットのランチなど。「5月の風のゼリー」は残照館「立原道造記念室」にちなみ、詩人の最期の言葉「5月の風をゼリーにして持ってきてください」をイメージした。
■土・日・月曜の11時~15時30分/火曜~金曜休(GW、お盆、冬季休)※臨時休はInstagramでお知らせ/交通は前山寺と同じ/TEL:070-9138-4569
営業:9時~16時30分/祝日を除く火曜休/1000円
住所:上田市古安曽山王山3462
交通:上越新幹線上田駅から上田電鉄16分の下之郷駅下車、シャトルバス(冬季休)に乗り換え11分、無言館下車すぐ。または上田駅から上田電鉄21分の塩田町駅下車タクシー5分/上信越道上田菅平ICから17キロ
TEL:0268-37-1650
塩田観光タクシー/問い合わせ:TEL0268-38-3151(駅から無言館、前山寺などへの交通に便利)
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年5月号)
(Web掲載:2024年6月1日)