多摩丘陵の端の町田で、白洲夫妻の美と花を愛でる里山歩き(2)【駅から歩こう1万歩】
薬師池は水田用池として開拓されたため池で、タイコ橋からの眺めは絵になる
鶴見川沿いから歴史公園の新施設、町田唯一の銭湯へ
多摩丘陵の端の町田で、白洲夫妻の美と花を愛めでる里山歩き(1)【駅から歩こう1万歩】から続く
武相荘から南へ坂道を上って行くと、道が右にカーブし、右に畑、左側に慶松(けいしょう)幼稚園がある。幼稚園裏の墓地の脇道を下り、金井入口交差点を渡ると鶴見川が見える。ここからは川沿いを歩こう。
川幅20メートルほどの鶴見川の両岸に遊歩道が整備され、ジョギングする人や犬を連れて散歩する人に行き会う。所々にある小さな菜園や雑木林を眺めながらの散策は、郊外の自然を感じるにはうってつけだ。
袋橋を渡って南下すると、町田薬師池公園が見えてくる。「日本の歴史公園100選」に選ばれた、自然と歴史が融合した公園だ。入ってすぐの池はハス田で、7月下旬から大賀ハス(古代ハス)が咲く。隣接してアジサイ園もある。江戸時代はため池だった薬師池に架かるタイコ橋を渡ると、水車小屋とハナショウブ田があり、約180品種2200株のハナショウブが、5月下旬から白や紫、赤紫色の花を咲かせる。
重要文化財の旧永井家住宅と旧荻野家住宅という江戸時代の古民家2棟が移築されたエリアには、万葉植物70種や野草が植えられた萬葉草花苑(まんようくさばなえん)もある。ここから上っていくと公園の名称の由来となった薬師堂(普光山福王寺<ふこうざんふくおうじ>)があり、さらに階段を上って柵を出ると西園に入る。
芝生の展望広場を経て下っていくと、西園にカフェ・レストランや直売所、体験工房などの、2020年にオープンした瀟洒(しょうしゃ)な建物が点在している。イベントを行う芝生広場もある。直売所には市内40軒以上の契約生産者の新鮮な地場野菜が並び、町田の名産品なども売っている。土・日曜と祝日限定の「やくしメロンパン」380円はナッツの香ばしさとメープルバターが香る逸品だ。
西園を出て右へ5分ほど歩くと今井谷戸(いまいやと)の交差点が現れる。ここまででほぼ1万歩。今井谷戸バス停からバスに乗れば、約10分で町田駅に着く。まだ歩けると思い、また汗を流してさっぱりしたかったので、古淵(こぶち)駅が最寄りの大蔵(おおくら)湯までさらに約40分歩いた。町田市唯一の銭湯だ。
大蔵湯は代替わりを機に16年末にリニューアルした。店主の土田太一さんは「昔ながらの銭湯の雰囲気はそのままに、こだわりを反映した」と言う。こだわりの一つ、良質な井戸水を軟水化した湯につかり、歩き通しでこわばった筋肉をほぐしながらつらつらと考えた。
起伏に富んだ地形なので上り下りが多く、歩くのに一苦労する分、変化も感じられる。丘陵を切り開いてできた団地や住宅の周りには、雑木林や農地も残っている。白洲夫妻が暮らした頃の里山風景は望めないが、一方で立ち並ぶ団地は昭和の郷愁を感じさせた。東京郊外はまだまだ歩きがいがありそうだ。
文/田辺英彦 写真/青谷 慶
【モデルコース】
●徒歩距離/約10.3キロ
●徒歩時間/約3時間30分
鶴川駅
👟(1200メートル)
旧白洲邸武相荘
👟(3800メートル)
町田薬師池公園
👟(1500メートル)
西園
👟(2500メートル)
大蔵湯
👟(1300メートル)
古淵駅
町田薬師池公園 四季彩の杜 西園
ぼたん園やリス園、七国山などからなる四季彩の杜の一施設で、2020年4月開園。約9ヘクタールの敷地に、農園や果樹園、花畑が広がる。カフェ・レストランでは、収穫期には町田産ブルーベリーを使った薬師ソフトクリーム(右)も。テイクアウト530円。
■直売所9時〜17時/年末年始休/小田急線町田駅北口からバス13分、四季彩の杜西園前下車すぐ/TEL042-851-8942、カフェ・レストラン44APARTMENT薬師池8時〜21時30分/年末年始休/TEL042-860-6956 公式サイトはこちら
大蔵湯
1966年創業。総ヒノキの湯船にイグサのござを敷いた脱衣所や木製のロッカーなど昔ながらの銭湯の風情を残す。浴室にはシャンプーとボディソープが備え付け。貸しタオル50円。
■14時〜23時/金曜休/520円(サウナ+330円)/横浜線古淵駅から徒歩20分/TEL042-723-5664 公式サイトはこちら
鶴川駅
小田原急行鉄道(現・小田急電鉄)が小田原線(新宿―小田原駅間)を開業した1927年に鶴川駅も開業。当初は「直通」と呼ばれる小田原駅まで運行する列車だけが停車する駅だった(各駅停車は新宿から稲田登戸駅[現・向ヶ丘遊園駅]までの運行)。本文の『鶴川日記』の引用の「駅」は鶴川駅のこと。
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年6月号)
(Web掲載:2024年8月6日)