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多摩丘陵の端の町田で、白洲夫妻の美と花を愛でる里山歩き(1)【駅から歩こう1万歩】

場所
> 町田市
多摩丘陵の端の町田で、白洲夫妻の美と花を愛でる里山歩き(1)【駅から歩こう1万歩】

白洲(しらす)夫妻が時間をかけて住みやすい空間に仕上げた茅葺き民家をミュージアムとして開放

 

鶴川駅から、作家・白洲正子の旧宅「武相荘」へ

「駅から歩いて十五分ほどの山の麓(ふもと)に、大きな柿の木にかこまれて、こんもりと建つ茅葺(かやぶ)き屋根の農家が目にとまった。『あんな家に住んでみたい』」

日本的な美の世界を発掘、追求した作家、白洲正子の随筆『鶴川日記』の一節だ。太平洋戦争の最中、白洲次郎・正子夫妻は東京都町田市に編入される前の南多摩郡鶴川村に移り住み、終(つい)の住み処(か)とした。以前に本書を読んで以来、鶴川という地名が記憶に刻まれた。そして、夫妻の暮らした茅葺き屋根の旧宅が今も残っていることを知った。里山の風景はまだ残っているのか、郷愁を求めて小田急線鶴川駅から歩き始めた。

駅東側から北へ延びる鶴川街道を進み、途中から住宅地の中を通って行くと旧白洲邸武相荘(ぶあいそう)の入り口が現れる。駐車場の奥に竹林の小道があり、一気に風情と趣のある空間に入り込む。5月から6月にかけて黄や紫色の花が咲くハナショウブが植えられたウッドデッキを通り、階段を上がって左の、長屋門とその向こうに茅葺き屋根がのぞき見えた。

武相荘へは鶴川街道から坂を上っても入れるが、駐車場奥の竹林を通って行く方が風情がある

白洲夫妻の娘婿で、武相荘の館長である牧山圭男(よしお)さんに案内してもらい、ミュージアムとして開放している旧宅を見て回った。土間は洋風の居間に改装されて夫妻が使用していたソファやテーブルなどが置かれ、囲炉裏(いろり)の間には白洲正子の審美眼(しんびがん)で選んだ食器などが並べられている。正子の書斎は、文机(ふづくえ)に向かう作家の姿を容易に想像できるほど、そのままの形で残っている。白洲次郎が制定に関わった日本国憲法の原稿や「葬式無用 戒名不用」と書かれた遺書などの展示も興味深い。

農家だった茅葺き民家に手を入れているが、古いものを大切にした質素な暮らしぶりと日本の美が随所に感じられた。

白洲正子の書斎は蔵書もそのままに保存されている
囲炉裏の間に展示された什器(じゅうき)の数々。価値ある骨董(こっとう)も普段使いだったとか
次郎の直筆で「葬式無用 戒名不用」と書かれた遺書

庭園に出ると、牧山さんは前方の住宅地を指し、「宅地開発で手放す前は、ずっと白洲家の畑が続いていて、次郎がよく畑仕事をしていました」と思い出を語った。現在の景観からはかけ離れた光景だったろう。

何気ない展示もハイセンス!
婚約時代に次郎と正子がお互いに贈ったポートレート
長屋門脇の建物に、次郎が17歳の時に父から買い与えられたアメリカ車ペイジの同型車を展示

旧宅の隣はレストラン&カフェで、ランチでは白洲家の一人娘、牧山桂子(かつらこ)さん監修のカレーなど、白洲家ゆかりのメニューが味わえる。

文/田辺英彦 写真/青谷 慶

 

多摩丘陵の端の町田で、白洲夫妻の美と花を愛めでる里山歩き(2)【駅から歩こう1万歩】へ続く(8/6公開)

 

【モデルコース】

●徒歩距離/約10.3キロ
●徒歩時間/約3時間30分

鶴川駅
 👟(1200メートル)
旧白洲邸武相荘
 👟(3800メートル)
町田薬師池公園
 👟(1500メートル)
西園
 👟(2500メートル)
大蔵湯
 👟(1300メートル)
古淵駅

 

旧白洲邸武相荘

農家の納屋を移築し、夫妻が工作室として使っていた建物を改装したレストラン
レストランで味わえる白洲夫妻の長女、桂子さん監修のチキンカレー1700円。次郎にならって、当初カレーのカトラリーはフォークだけだった

武蔵(むさし)国と相模(さがみ)国の境という立地にちなむと同時に「無愛想」をかけて、白洲次郎が命名した。2001年にミュージアムとして開館し(小学生以下入場不可)、15年にレストラン&カフェがオープン。

■ミュージアム10時〜16時30分/祝日を除く月曜休/1100円/小田急小田原線鶴川駅から徒歩20分/TEL042-735-5732、レストラン&カフェ11時〜15時(カフェは〜15時30分、土・日曜、祝日は〜16時)/月曜休(祝日の場合は営業)/TEL042-708-8633 公式サイトはこちら


  

鶴川駅
小田原急行鉄道(現・小田急電鉄)が小田原線(新宿―小田原駅間)を開業した1927年に鶴川駅も開業。当初は「直通」と呼ばれる小田原駅まで運行する列車だけが停車する駅だった(各駅停車は新宿から稲田登戸駅[現・向ヶ丘遊園駅]までの運行)。本文の『鶴川日記』の引用の「駅」は鶴川駅のこと。

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年6月号)
(Web掲載:2024年8月5日)


Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

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