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歴史と芸術に彩られるポーランド(2)

場所
> グダニスク
歴史と芸術に彩られるポーランド(2)

モトワヴァ運河沿いに連なる中世の建造物群。ひときわ大きくそびえる中央のレンガ造りの建物が、14~15世紀に活躍した木造クレーン

 

グダニスク 琥珀と交易で栄えたポーランドきっての港町

歴史と芸術に彩られるポーランド(1)から続く


ポーランド北部・バルト海に面したグダニスクは、国内最大の港湾都市である。その象徴ともいうべき旧港の運河沿いに建てられた見事な建造物を前に、道ゆく観光客から、こんな声が聞こえてきた。

「ねえ、見て、この絶景!こんな幻想的な街並みを見たの、初めてよ」

造船と貿易に加えて琥珀の採掘によって莫大な富を得た果ての豪壮な建物群。その重厚感あふれるゴシック調や優美なロココ調など、様々なスタイルの建物が、鏡のようなモトワヴァ運河の水辺に写り込んで、実に幻想的な光景を醸し出しているのだ。

グダニスクにはレンガ造りの建物が多いが、ルネサンス様式やロココ調など、建築様式は多彩。国際色豊かな港町だった証しとも言えそうだ

その絶景を目の当たりにすれば、誰もがそんな感嘆の声を上げるに違いない。グダニスク散策は、ここから始めるのが一番だ。特にクラシカルな木造船が行き交う前の早朝、水面がゆらめく前がオススメである。今はグダニスク国立海洋博物館ともなっているレンガ造りの重厚な建物に設えられた、圧巻の木造クレーンも目にしておこう。

ドゥーギ広場にあるネプチューン像。この街のシンボルともいうべき海の神だ

第二次世界大戦始まりの街

その前に、この街を紹介するにあたって、まずどうしても外せない第二次大戦の始まりの地だったという歴史について学んでおきたい。時は、1939年9月1日の早朝4時45分である。ドイツ空軍機の爆撃に続いて、戦艦シュレスヴィヒ・ホルンシュタインから、一発の砲弾が放たれた。この砲弾を合図に始まったのが、ポーランド侵攻であった。2600人(3500人とも)ものドイツ軍兵に対し、ダンツィヒ(グダニスク内にあった自由都市)の岬・ヴィステルプラッテを守るポーランド軍兵は、わずか180人(205人とも)。ポーランド軍の不利は目に見えていた。それにもかかわらず、ポーランド兵の士気は高く、必死に抵抗。1週間も耐え抜いたと伝えられている。

しかし、奮戦も虚しく、とうとう降伏。このドイツ軍の侵攻に対して、ポーランドと同盟を結んでいたイギリスとフランスが宣戦布告。こうして、第二次大戦が始まったのである。

マリアツカ通りで見かけた建物の入り口の装飾品。贅の極みというべきか

そんな歴史を踏まえた上で、あらためて散策を開始しよう。琥珀などのアクセサリー店が立ち並ぶマリアツカ通りを経て、聖母マリア教会の屋上から市街を見下ろすのがオススメだ。その後は、街のシンボルともいうべき海の神・ネプチューン像がそびえるドゥーギ広場に面した市庁舎(グダニスク歴史博物館)や、ルネッサンス様式の華麗なる黄金の門などを見学したい。

王の道とも呼ばれたトゥーギ通りはカラフルな花で彩られていた。中央にそびえるのが旧市庁舎の塔
琥珀博物館は、大きなレンガ造りの建物の構造もさることながら、中に虫が入った貴重な琥珀など見どころ満載だ

大きなレンガ造りの琥珀博物館にも立ち寄った。バルト海沿岸は、世界一の琥珀の産地。グダニスクの発展にも琥珀が寄与しており、アクセサリーとしてだけでなく、漢方薬や香料としても珍重されたとか。

イヤリングや指輪、ネックレスなどの琥珀の装飾品も手に入る

その色鮮やかな宝石類を眺めていた時のこと。近くにいた観光客が目をらんらんと輝かせながら、「よく見て!琥珀の中に、虫が入っているわよ」と歓喜の声。長い年月をかけて樹脂が固まる際に、虫が入ることも多いが、それもまた価値があると見なすべきだろう。ともあれ、「バルト海の黄金」とも謳われた貴重な琥珀にまつわる歴史や加工技術なども学んでおこう。

1457年までドイツ騎士団の本拠地として使用されていたマルボルク城。ゴシック様式の城としては世界最大規模だ

また、郊外にあるマルボルク城に足を伸ばすのもいい。ここは中世のドイツ騎士団が拠点とした要塞で、1997年には世界文化遺産に登録されたゴシック様式の城郭である。ドイツとの関わり合いは中世の頃から密接で、その歴史に目を向けることもお忘れなく。

ヨーロッパ連帯センターでは、ポーランドの労組というべきソリダリティ(連帯)が主導した民主化運動の歴史を学べる

最後に、もう一度歴史を振り返ってみよう。第二次大戦でポーランドは、ドイツやソ連などの占領下に置かれ、苦難を強いられたことはいうまでもない。それでもくじけないポーランドの人々は、戦後、労働組合「連帯」結成などの民主化運動を経て、89年、ついに非共産主義政府・ポーランド共和国を成立させた。

連帯の指導者として活躍したワレサ氏ゆかりの展示物も多い。元は造船所の電気技師だったが、後に大統領に選出された

この苦闘の歴史を踏まえた上で、今日、見事に復興を遂げた美しいグダニスクを訪れると、その街歩きが一層趣深いものになるに違いない。

ちなみに現在のポーランドは、ロシアの侵攻を受けた隣国ウクライナから多くの避難民を受け入れている。その度量の大きさにも、感服するばかりだ。

文・写真/藤井勝彦

歴史と芸術に彩られるポーランド(3)へ続く(11/20公開)


<旅のインフォメーション>
■交通/ワルシャワへは成田などから直行便のほか、ヘルシンキなどを経由していくこともできる。ワルシャワからグダニスクまでバスで約5時間。グダニスクからマルボルク城までバスで約1時間
■時差/日本より8時間(夏季は7時間)遅れ
■ビザ/観光目的の場合、90日以内の滞在であればビザは不要。ただし、入国時にパスポートの残存有効期限が3ヶ月以上残っていることが必要
■通貨/ズウォティ(zt)1ズウォティ= 38円(2024年10月6日現在)
■気候/グダニスクの年間平均気温は夏季約17度、冬季約−1度
■問い合わせ/ポーランド政府観光局info.jp@poland.travel
 公式ホームページはhttps://www.poland.travel/ja

※記載内容は掲載時のデータです。

(Web掲載:2024年11月13日)


Writer

藤井勝彦 さん

歴史紀行作家・写真家。編集プロダクション・フリーポート企画代表を経て、2012年より著述業に専念。「日本神話の謎を歩く」「日本神話の迷宮」「邪馬台国」「源為朝伝説」「神々が宿る絶景」「三国志合戦事典」「三国志英雄たちの足跡」「図解三国志」「図解ダーティヒロイン」「中国の世界遺産」「世界遺産富士山を歩く」など著書多数。

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