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歴史と芸術に彩られるポーランド(3)

場所
> クラクフ
歴史と芸術に彩られるポーランド(3)

広々とした中央広場に面して聖マリア教会の塔がそびえ立ち、トランペットがそこで奏でられる。左手はかつて織物の取引所として利用されていた織物会館

 

クラクフ ポーランドで最も美しい古都の世界遺産を巡る

歴史と芸術に彩られるポーランド(2)から続く


鐘の音に続いて、トランペットの演奏が始まった。それは、勇ましいというより、心なしか物悲しい。

「パァ〜パラ〜、パララ〜、パ〜!」

ポーランドの古都・クラフクの旧市街の中心ともいうべき中央広場。そこにそびえる聖マリア教会の塔の上から、儚げな音色が聞こえてきた。毎時ゼロ分ぴったりに奏でられるこの街ならではのセレモニーである。

その起源は、1240年に遡る。ヨーロッパ中を震撼させたモンゴル軍の侵攻。それをいち早く街中に知らせようと、あるトランペット兵が奏でた。しかし、その途中で、喉を射られて殺されてしまったとか。その演奏者を追悼するため、数百年もの間、奏でられ続けているというのだ。「ヘイナウ・マリアツキ」と呼ばれるこのトランペットによる時報は、唐突に演奏が終わって違和感を覚えてしまうが、それこそが、演奏途中に兵が射殺されたことを示すものだ。13世紀から365日欠かさず連綿と演奏され続けていることに、歴史の重みを感じる。

守護聖人像が並べられた聖ペテロ聖パウロ教会。教会内の柱に掲げられた天使像も見ておきたい

トランペットの音色に心惹かれつつも、周りを見回してみれば、中世の面影が漂う美しい建物に囲まれていることに気がつくはず。さすが「ポーランドで最も美しい古都」と呼ばれるだけのことはあると、感心してしまう。この街は、ナチス・ドイツに占領されながらも、ワルシャワやグダニスクなどと違って奇跡的に爆撃から逃れることができた。

そのため、中世からの建造物がほとんどそのままの状態で残っているのだという。クラクフ歴史地区が、1978年に最初に登録された「世界遺産オリジナル12」の一つに選ばれた理由も納得できそうだ。

ヴィスワ川沿いにそびえるヴァヴェル城の雄姿。大聖堂や旧王宮、宝物武器博物館などが見学できる

この中央広場を皮切りとして街歩きを始めたい。守護聖人像が立ち並ぶ聖ペテロ聖パウロ教会や、ヴァヴェル城などを経て、シナゴーグ(ユダヤ教会)が点在するカジミエシュ地区まで足を伸ばそう。

ヴァヴェル城内の王の寝室。豪華なじゅうたんや天井画などにも注目したい

特にポーランドの王宮殿であったヴァヴェル城は、見応え十分。970年にポーランド王・カジミエシュ3世の命によって建てられて以降、1596年に至るまで王都として君臨し続けたところである。

ここでは、重さ11トンもある鐘に左手で触ることができれば恋が叶うと言われる大聖堂が見ものであるが、ヴィスワ川の岸辺にある火を噴くドラゴン像も見逃せない。クラクフの名前の由来となった伝説の舞台となったところだからだ。

ヴィスワ川沿いには、浮世絵などが展示された日本美術技術センター・マンガ館もある

その昔、川沿いの洞窟に若い娘をさらって食うという恐ろしいドラゴンが棲んでいたという。困り果てた王が、ドラゴンを退治した者に娘を娶らすと宣言。これに応えて、クラクという名の青年が、羊の毛皮を縫い合わせて作った偽物の羊に硫黄を染み込ませて川に投げ入れた。それを飲み込んだドラゴン、お腹の中で硫黄が燃え始めたからたまらない。挙句、爆発。こうして無事退治できたことで、再び街に平和が訪れた。人々は彼に感謝して、街の名をクラクフと呼ぶようになったのだとか。

数分に一回のペースで火を噴くドラゴン像。その姿を一目見ようと、多くの観光客が集まる

ちなみにそのドラゴン像、周りはいつも大勢の観光客で溢れている。時折、「キャァ〜、今、火を噴いたわよ!」と歓声が上がるが、それは数分に一回の割合で火を噴くから。その度に、子供たちだけでなく大人も、皆大はしゃぎ。何度も見ようとする人が多いから、いつも人だかりが絶えないのだ。

ガジミエシュ地区にあるレーム・シナゴーグは1553年建造。近くには、見学も可能なスタラ・シナゴーグ(ユダヤ博物館)もある

旧市街の散策を終えたら、その南に広がるカジミエンシュ地区にも足を延ばしたい。もともとユダヤ人が多く暮らしていたところで、今も多くのシナゴーグが点在。その一つ、スタラ・シナゴーグがユダヤ博物館として公開されているので立ち寄っておこう。

第二次世界大戦時、ナチス・ドイツによるユダヤ人の強制収容所送りを阻止して多くの人命を救ったオスカー・シンドラーの工場があったのもこの地区。彼の生涯を描いた映画『シンドラーのリスト』のロケもここで行われている。

ヴィエリチカ岩塩坑の内部にある深さ9メートルあるという地底塩湖。ライトアップされ、実に幻想的だ

そしてもう一か所、忘れてはならないのが、クラクフからバスで40分ほどのところにあるヴィエリチカ・ボフニア王立岩塩坑だ。クラクフ歴史地区とともに1978年に世界遺産に登録されており、中世ポーランドの貴重な財源ともなった岩塩の採掘所である。

聖像はもとより、床や天井、周囲の壁や壁画、シャンデリアに至るまですべてが塩で作られた聖キンガ礼拝堂
塩で作られた「最後の晩餐」をはじめ、岩塩レリーフが数多く彫り込まれている
併設のショップで手に入れたいのが、岩塩。灰色がかっているのが特徴だ

最大の見どころが、地下101メートルに築かれたという聖キンガ礼拝堂だ。「シャンデリアも壁に描かれた『最後の晩餐』も聖像も皆、塩で作られているんですって!」と言う声が聞こえてくるように、装飾品の全ての原材料が塩。単なる岩塩の採掘坑にとどまらぬ、芸術品のオンパレードというところにも目を見張らされてしまうのだ。

文・写真/藤井勝彦

歴史と芸術に彩られるポーランド(4)へ続く(11/27公開予定)


<旅のインフォメーション>
■交通/羽田あるいは成田からワルシャワへはヘルシンキなどを経由して行くのが便利、飛行時間はトータル約14〜15時間、ワルシャワからクラクフまでバスで約3時間30分。クラクフからヴィエリチカ岩塩坑までバスで約40分
■時差/日本より8時間(夏季は7時間)遅れ
■ビザ/観光目的の場合、90日以内の滞在であればビザは不要。ただし、入国時にパスポートの残存有効期限が3ヶ月以上残っていることが必要
■通貨/ズウォティ(zt)1ズウォティ=38円(2024年10月6日現在)
■気候/クラクフの年間平均気温は夏季約19.6度、冬季約-2.1度
■問い合わせ/ポーランド政府観光局info.jp@poland.travel
 公式ホームページはhttps://www.poland.travel/ja

※記載内容は掲載時のデータです。

(Web掲載:2024年11月20日)


Writer

藤井勝彦 さん

歴史紀行作家・写真家。編集プロダクション・フリーポート企画代表を経て、2012年より著述業に専念。「日本神話の謎を歩く」「日本神話の迷宮」「邪馬台国」「源為朝伝説」「神々が宿る絶景」「三国志合戦事典」「三国志英雄たちの足跡」「図解三国志」「図解ダーティヒロイン」「中国の世界遺産」「世界遺産富士山を歩く」など著書多数。

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