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【私の初めてのひとり旅】宮尾俊太郎さん カンヌ、マドリード、北海道(1)

場所
> カンヌ、マドリード、札幌
【私の初めてのひとり旅】宮尾俊太郎さん カンヌ、マドリード、北海道(1)

みやお・しゅんたろう[バレエダンサー]
1984年北海道根室市生まれ。2004年にKバレエカンパニー入団。15年にはプリンシパル(最高位ダンサー)となり、20年よりゲスト・アーティスト。現在はダンサー・振付家、俳優としても活躍。NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」に田沼意次のおい、田沼意致(おきむね)役で出演中。今年はK-BALLET TOKYO(バレエ・トウキョウ)の9月初演新作「パリの炎」にて自身初の全幕演出・振り付けを担当する。


"世界が僕を待っている"大志を胸にカンヌを起点にヨーロッパ各国へ

北海道の根室で生まれ、3歳で札幌に移り住みました。バレエを始めたのは14歳。ですから、バレエ講習会に参加し、翌年からカンヌ(フランス)のロゼラ・ハイタワー・バレエ学校の校長になる予定だったモニク・ルディエールさんに誘われると、迷わず留学を決めました。17歳で渡仏したこの時が、初めてのひとり旅だったと言えるでしょう。

成田空港からパリ=シャルル・ド・ゴール空港へ行き、そこからカンヌでの公演リハーサルで(中央)二ースのコート・ダジュール空港へ飛んで、バスに乗り換えてカンヌを目指しました。フランス語も英語もほとんどしゃべれなかったけれど、不安も迷いも戸惑いもありませんでした。“世界が僕を待っている!”。そんな自信に満ちていましたから。ただ、バスはどこへ行くのか、どこで降りたらいいのかわからなくて苦手でした。

学校は日本のように規律が厳しいわけではなく、より個人を尊重していました。気を付けないといくらでもだらけてしまえる環境でした。休日は日本人の級友らとモンテカルロやニースの街に繰り出したり、バレエの公演を見に行ったり、カンヌのビーチで夕日を眺めたり……。

カンヌには2年半ほどいて、その間、ドイツやオランダ、ノルウェーなどヨーロッパ各地にオーディションを受
けに行きました。学校公演でボルドーやコルシカ島へも行きました。コルシカ島はナポレオンの出身地ですが、当時は何も知らず、今思えば、もっと街を見ておけばよかったですね。

2.バレエ.jpgカンヌでの公演リハーサルで(中央)

バレエ学校を卒業した後は、スペインのマドリードに移り住み、約3か月、バレエダンサーの職を探しましたが、マドリードは怖かった。道で血まみれでけんかしている人がいるわ、通りの向こうではナイフを持って大声でどなっているオジサンがいるわ……。滞在中の2004年には、現地で列車爆破テロがありました。1本遅い電車に乗っていたら、私も被害に遭っていたところでした。

住んでいたのは、エレベーターのない、木造9階建てアパートの最上階でした。ゴキブリが湧くように出て、日本から送ってもらった殺虫スプレーを部屋中に噴射したら、天井から雨のように降ってきて——それが、一番の恐怖体験でした。どこへ行ってもどんな所でも生きていけると、その時思いましたね。

話/宮尾俊太郎 聞き手/田辺英彦

【私の初めてのひとり旅】宮尾俊太郎さん カンヌ、マドリード、北海道(2)へ続く(7/1公開)


(出典:「旅行読売」2025年4月号)
(Web掲載:2025年6月30日)


Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

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